スイスのセメント大手Holcimが、スウェーデンのスタートアップPaebblとドイツの建設会社Goldbeckと組み、二酸化炭素を固定化した産業用コンクリートスラブの世界初施工に成功した。この実証が示す建設業脱炭素の現実と、日本への示唆を読み解く。

📌 この記事のポイント

  • Holcim・Paebbl・Goldbeckの3社連合が2026年5月、CO₂を鉱物化した骨材を用いた産業用床スラブを世界で初めて打設。従来コンクリートと同等の強度を確認済み。
  • セメント製造は全世界CO₂排出量の約8%を占める。この技術が普及すれば、工事現場レベルでのカーボンネガティブ施工が現実の選択肢になる。
  • 日本の大手ゼネコンや太平洋セメント・住友大阪セメントなどはCO₂固定技術の自社開発を急ぐが、欧州勢との技術格差が顕在化しつつある今、動向を見極める必要がある。
建設機械 インフラ工事(写真提供:pixifant / Pixabay)
建設機械 インフラ工事(写真提供:pixifant / Pixabay)

世界初の「炭素貯蔵コンクリートスラブ」とは何か

打設したのは、産業施設向けの床スラブだ。通常の骨材の代わりに、Paebblが開発した「鉱物化CO₂骨材」を配合する。Paebblの技術は、工場や発電所が排出するCO₂を橄欖岩(かんらん岩)系の岩石と反応させ、炭酸塩鉱物として永続的に固定するというもので、大気中に放出されるはずだった炭素をそのままコンクリートの中に”埋め込む”発想だ。

Goldbeckが施工した今回の床スラブは、引き渡し後も炭素固定状態が維持されることが確認されている。Holcimによると、この骨材を使ったコンクリートは従来配合との強度比較で実用水準をクリアしており、追加の特殊施工手順も不要という。「カーボンネガティブな床を通常の施工プロセスで実現できた」というのが3社共同の主張だ。

現場目線で言えば、最も評価すべき点は「施工方法を変えなくてよい」ことだろう。骨材を置き換えるだけなので、既存の油圧ショベルやホイールローダーによる材料搬送、コンクリートポンプの圧送工程、仕上げ機械の手順も一切変わらない。建設DXや自動化の文脈で語られがちな脱炭素技術の中で、これは現場への摩擦が極めて少ないアプローチだ。

なぜ2026年に「骨材のCO₂固定」が加速しているのか

背景にあるのは、欧州炭素国境調整メカニズム(CBAM)の本格運用と、建設資材のカーボンフットプリント開示義務の強化だ。EU圏内では2025年から建設プロジェクトのライフサイクルアセスメント(LCA)提出が公共調達の前提条件になりつつあり、ゼネコンは”使う材料のCO₂量”を契約前に証明しなければならなくなっている。

問題はここだ。セメント1トンの製造で排出されるCO₂は約0.8トンとされ、世界のセメント生産量は年間43億トン前後で推移している。仮に骨材のCO₂固定量がセメント排出分を相殺できるなら、コンクリート1打設でネット排出量をゼロ以下に押し込める計算が成り立つ。Paebblはスケールアップ後のコスト目標を既存骨材と同水準に設定しており、コスト競争力が確保されれば採用障壁は急速に下がる。

この動きが示唆するのは、建設資材産業における「排出権の内製化」という構造変化だ。従来は「工場でCO₂を出して製品を作り、カーボンクレジットで相殺する」という間接補正が主流だったが、材料そのものが炭素貯蔵体となれば、プロジェクト単位での直接的なカーボンアカウンティングが可能になる。ゼネコンが建設コストと炭素コストを同一の調達テーブルで管理する時代の入り口だ。

変わる調達戦略——日本の建設業界が直面する現実

日本国内でも、CO₂固定コンクリートの研究開発は進んでいる。大成建設は「T-eConcrete/Carbon-Recycle」として製鋼スラグとCO₂の反応を利用したコンクリートを実用化段階に進めており、清水建設も独自の炭酸化養生技術の試験施工を重ねている。ただし、今回のHolcim・Paebblの実証が示した「既製の骨材置換で現場施工を変えない」という手法の完成度は、国内勢の現時点の到達地点をリードしている。

購買担当者の視点で見れば、今後3〜5年で骨材の調達仕様書に「炭素固定量の証明書」が加わる展開を想定しておくべきだろう。海外建設プロジェクトでは既にそうした要求が入札条件に入り始めており、国内公共工事でもカーボンニュートラルに向けた国交省の技術基準改定の動向が今後の焦点になる。

オペレーター・現場監督の立場からすると、骨材の変更だけなら施工方法は変わらない。工期が迫る現場で「新技術の習得コスト」を取れない実情を踏まえれば、Holcim方式のアプローチは導入ハードルが低い。ただし材料コストの動向次第では原価が跳ね上がるリスクもあり、試験採用から単価交渉の積み重ねが必要になる。

よくある質問

Q: CO₂を固定したコンクリートは通常のコンクリートより強度が落ちるの?

A: Holcimの今回の実証では従来配合と同等の強度を確認済みとされており、特別な補強や施工手順の追加は不要と発表されています。ただし大規模な長期耐久データの蓄積はこれからの段階です。

Q: CO₂固定コンクリートのコストは普通のコンクリートと比べてどのくらい高い?

A: Paebblは量産スケール時に既存骨材と同水準のコストを目標に設定していますが、現時点では量産体制が確立されておらず、プレミアム価格が発生するとみられます。具体的な普及価格は2027〜2028年以降に明確化される見込みです。

Q: 日本の建設現場でこの技術はいつ使えるようになる?

A: 日本国内での展開時期は未定ですが、大成建設・清水建設など国内大手ゼネコンがCO₂固定コンクリートの独自開発を進めており、2027〜2030年度をめどに試験的な国内採用事例が出てくる公算が高い状況です。

まとめ

Holcim・Paebbl・Goldbeckによる世界初の炭素貯蔵コンクリートスラブ打設は、建設業の脱炭素が「理念」から「施工現場の調達判断」に移行しつつあることを示す一歩だ。骨材置換という施工変更ゼロのアプローチは、現場への普及速度を左右するカギになる。日本の大手ゼネコン・資材メーカーも開発競争に参入しているが、欧州勢の実証スピードは見逃せない。引き続きkenki-pro.comで国内外の建設技術・環境対応の最新動向をチェックしてほしい。

出典:Holcim team pours first carbon-storing concrete slab