スウェーデン・チャルマース工科大学の研究チームが、酵母由来の3Dプリント可能なバイオゲル素材を開発した。石膏・プラスチック・合成繊維の代替材として建築・工事現場への応用を主張しており、建設材料の脱炭素化を急ぐ日本の建設業界にも無視できない動きだ。

📌 この記事のポイント

  • スウェーデン・チャルマース工科大学が酵母ベースの印刷可能バイオ素材を開発し、石膏・プラスチック・合成繊維の代替可能性を発表(2026年6月)
  • 建築内装材や構造補助材への応用が視野に入り、日本の大成建設・鹿島建設など大手ゼネコンが推進する環境対応調達に新たな選択肢をもたらす可能性がある
  • 実用化・量産化にはまだ課題が残るが、建設材料の調達戦略と環境性能評価の見直しを求められる時期が近づいている
建設材料 バイオ素材(写真提供:11066063 / Pixabay)
建設材料 バイオ素材(写真提供:11066063 / Pixabay)

酵母ゲル素材とは何か——チャルマース大学の開発内容

これは単なる実験室の話ではない。スウェーデン・チャルマース工科大学(Chalmers University of Technology)の研究チームが発表したのは、酵母を原料とする生物由来のゲル素材で、3Dプリンターを使って任意の形状に成形できるという特性を持つ。研究チームは、この素材が石膏・プラスチック・合成繊維の代替として建築用途および工業用途に使用できると主張している。

素材の基盤となるのは酵母の細胞壁に含まれる成分だ。従来のプラスチック系建材や石膏ボードが化石燃料や採掘資源に依存するのに対し、酵母は発酵工業の副産物として大量に得られる再生可能資源である。問題はここだ。「バイオ素材」という言葉は以前から建設業界で使われてきたが、3Dプリントとの組み合わせによって任意形状への成形自由度を持たせた点が、今回の研究の独自性と言える。

研究の対象には建築内装材のほか、合成繊維が使われるような建材テキスタイル的用途も含まれている。一般的な建設現場では、天井・壁の仕上げ材として石膏ボードが広く使われ、断熱・防音パネルにはプラスチック系素材が多用される。それらを生物由来素材で置き換えられるとすれば、インフラ工事の環境負荷計算が大きく変わる。

なぜ今、バイオ建材なのか

建設業における脱炭素圧力が、材料調達の選択肢を根本から問い直している。

日本でも2050年カーボンニュートラル目標を受け、大成建設や鹿島建設をはじめとする大手ゼネコンが、資材調達段階での炭素排出量(スコープ3)の削減に本腰を入れ始めている。石膏ボードや建材プラスチックはこのスコープ3の中で無視できない比重を占めており、代替素材の探索は経営課題に直結している。

実はこれが厄介で、既存の代替バイオ素材の多くは成形自由度・強度・コストのいずれかで妥協を強いられてきた。竹・麻・菌糸(マイセリウム)ベースの建材は海外で商用化が進んでいるが、工場プレファブとの親和性や施工現場での取り扱い性に課題が残る。今回の酵母ゲルが「3Dプリント可能」という形で登場してきた背景には、こうした先行バイオ素材の限界を乗り越えようとする研究潮流がある。

建設DXとバイオ素材の交差点、というのが現時点での正確な見立てだ。3Dプリント建設技術はすでに住宅・橋梁分野で実証が進んでいるが、そのプリント材料が化学合成物ではなく生物由来素材に置き換わる流れが、今回の発表で一段と現実味を帯びた。

変わる建設材料調達——日本の現場・ゼネコンへの示唆

日本の建設業界への影響は、すぐに工事現場の施工手順を変えるというより、まず材料調達戦略と環境性能評価の枠組みに波及する。

購買担当者目線で言えば、現時点でこの酵母ゲルを発注できる段階ではない。チャルマース大学の発表は研究フェーズであり、量産体制・規格化・コスト競争力はこれからの課題だ。ただし、バイオ由来建材のサプライヤーリストを整備し、環境性能評価の指標にLCA(ライフサイクルアセスメント)を組み込む動きを先行させておくことが、今後の調達競争力につながる。

現場監督・設計担当の観点では、3Dプリント可能という特性が重要だ。複雑な意匠形状や既製品規格に収まらないカスタム部材の製作に、将来的にこうした素材が使われる可能性がある。油圧ショベルやクレーンを使う重機施工の現場ではなく、建築仕上げや内装工事の領域から実用化が始まると見るのが自然だろう。

日立建機や住友建機が牽引するICT建機・建設DXの流れと、バイオ素材革新は一見無関係に見える。しかし施工効率と環境対応を同時に求められる次世代の建設プロジェクトでは、使う機械と使う材料の双方がゼロから問い直されていく。その変化の一端が、今回の研究発表に表れている。

よくある質問

Q: 酵母ゲル建材はいつ頃、実際の工事現場で使えるようになりますか?

A: 現時点ではチャルマース工科大学の研究段階であり、量産化・規格化・コスト検証はこれからだ。実際の建設現場での使用には数年から10年単位の実用化フェーズが必要とみられ、まずは試験施工・パイロットプロジェクトでの実証が先行するとみるのが現実的な見通しだ。

Q: 酵母ゲル素材は石膏ボードより安くなりますか?コストはどのくらいですか?

A: 現時点では量産コストのデータは公表されておらず、石膏ボードとの価格比較は不明だ。酵母は発酵産業の副産物として入手しやすい一方、3Dプリント成形のコストが加わるため、スケールメリットが出るまでは既存材より割高になる可能性が高い。

Q: バイオ建材と3Dプリント建設を組み合わせた取り組みは他にもありますか?

A: 菌糸(マイセリウム)由来の断熱材や竹繊維複合材の商用化が欧米を中心に進んでいる。3Dプリント建設自体はコンクリート系素材での実証が先行しているが、バイオ素材との融合はまだ研究段階が多く、チャルマース大学の取り組みはその最前線に位置する。

まとめ

スウェーデン・チャルマース工科大学が発表した酵母由来3Dプリント可能バイオゲルは、石膏・プラスチック代替の可能性を持つ建設材料革新の一歩だ。即座に工事現場を変えるものではないが、環境対応と調達戦略を迫られる日本の建設業界が早期にウォッチすべき技術潮流である。建設材料・重機・施工技術の最新動向はkenki-pro.comで継続的に確認してほしい。

出典:Researchers claim printed yeast gel could replace plaster and plastic