工事現場での安全認識にはいまだ大きなばらつきがある。米国の大手建設会社が主導し、業界全体で安全用語を統一するための具体的な提案が2026年5月に公表された。建設業の安全管理が新たなステージへ進みつつある。

現場作業員が認識できる危険は45%だけ——数字が示す安全管理の実態

Construction Safety Research Allianceの調査によると、作業前の安全ミーティングで現場作業員が実際に認識できている危険は、その場に存在する全ハザードのうちわずか約45%にとどまる。つまり半数以上のリスクが見逃されたまま作業が進んでいることになる。

さらに深刻なのは、危険を認識できたとしても、現場ごとに呼び名や分類が異なる点だ。Construction Safety Weekの執行チームは、作業員が危険を認識していても、その呼称や定義が現場によってばらばらであることを問題視。同じ危険を「高エネルギー危険」と呼ぶ現場もあれば、別の名称で管理している現場もあり、統一された認識が生まれにくい状況が続いている。こうした課題に対応するため、執行チームは業界共通の安全用語フレームワークの採用を正式に提案した。

提案された用語体系は、「ハイハザード(High Hazard)」「ハイエネルギー(High Energy)」「STCKY(Stuff That Can Kill You=命を奪いうるもの)」という3分類で構成される。これらは重大な負傷や死亡事故——いわゆるSIF(Serious Injuries and Fatalities)——を引き起こす最も一貫した要因・前兆として機能するとされる。なお、アリゾナ州テンピに本社を置くSundt Constructionが先行して運用していたSTCKYプログラムは、AGC(米国総合建設業協会)から全国イノベーション賞を受賞しており、その実績がこの提案の土台となっている。

なぜ今、安全用語の統一が業界全体の課題となっているのか

建設業における労働災害は、軽微な事故とSIFを引き起こす要因が根本的に異なることが明らかになっている。Safety Weekの執行チームはこの点に着目し、従来の「全事故を均等に減らす」アプローチから、命に直結するリスクを優先的に排除するアプローチへの転換を訴えた。

GilbaneBuilding Co.のCEOでSafety Week執行委員会の委員長を務めるAdam Jelen氏は、「現場をまたいだ認識のギャップをなくし、作業員が最も危険な状況を迷わず特定できる言語環境を整えることが目的だ」と語る。特に、複数の現場を掛け持ちするクラフトワーカー(技能工)にとって、現場ごとに安全用語が変わることは大きな混乱要因となる。油圧ショベルやクレーン、ブルドーザーといった重機が稼働する環境では、一瞬の判断ミスが致命的な結果につながりかねない。

また、建設DXやICT建機の普及が加速する中でも、現場の安全文化はデジタル技術だけでは補えない。作業員同士、あるいは作業員と監督者が同じ言葉でリスクを共有できる基盤こそが、安全管理の実効性を高める根幹だ。OSHAがすでに定める「フォーカス4(Focus Four)」——墜落・感電・落下物・挟まれ——が死亡・負傷の主要因として広く知られる一方で、それ以外の重大リスクへの共通認識はまだ十分に浸透していない。そこを補完する仕組みとして、今回の提案は業界内で注目を集めている。

日本の建設業・工事現場への影響と示唆

日本の建設業でも、現場間での安全用語・安全管理基準のばらつきは長年の課題だ。元請け企業と下請け企業、さらに多重下請け構造の中で、KY(危険予知)活動やリスクアセスメントの質には大きな差がある。特に大型インフラ工事や再開発プロジェクトでは、複数の専門工種が同一現場で作業するため、危険の呼称や優先度の認識が統一されていないと、安全管理の抜け穴が生まれやすい。

今回の米国の取り組みは、日本の現場監督や安全管理担当者にとっても参考になる。とりわけ「命に直結するリスクだけを集中的に共通言語化する」という発想は、日本の現場でも即応用できる考え方だ。ホイールローダーや重機が稼働する土木・建築工事の現場では、STCKYの概念に近い「致命的危険」の優先的可視化は施工効率と安全性を同時に高める可能性がある。

さらに、テレマティクスや建設DXツールを活用した安全管理が広がる中、デジタルプラットフォーム上での危険分類も統一基準があればより機能する。日本でも国土交通省が推進するi-Constructionの文脈で、安全管理のデジタル化と用語標準化を連動させる動きが今後出てくる可能性は十分にある。海外建設プロジェクトに参画する日本企業にとっては、国際的な安全言語の標準化動向を把握しておくことが、競合優位性につながる局面も増えるだろう。

今後の展望——安全の「共通言語」はグローバルスタンダードになるか

Safety Weekが提案する安全用語の統一は、現時点では米国内の取り組みだが、その波及効果は広い。今後3〜5年で業界団体や主要ゼネコンへの採用が広がれば、海外建設プロジェクトや国際標準にも影響を与える可能性がある。日本の建設会社、特にグローバルに展開する大手ゼネコンや重機メーカーは、こうした海外安全基準の動向を継続的にウォッチする必要がある。安全管理は施工コストやリスク管理と直結する経営課題でもあり、共通フレームワークの普及は調達・施工の両面でプロセス標準化を後押しするだろう。

よくある質問(FAQ)

Q: STCKYとはどういう意味で、どのような危険が対象になりますか?

A: STCKYは「Stuff That Can Kill You(命を奪いうるもの)」の略称です。墜落・重機との接触・感電など、即死や重篤な障害につながる工事現場の最上位リスクを指す分類用語として使われています。

Q: 日本の建設現場でも同様の安全用語統一の取り組みはありますか?

A: 日本ではKY活動やリスクアセスメントが普及していますが、用語の統一は業界横断では進んでいません。国土交通省のi-Construction推進の中で、安全管理のデジタル化とあわせた標準化の議論が今後高まる見込みです。

Q: 安全用語の統一は建設コストや施工効率にどう影響しますか?

A: 共通用語の導入により安全教育の重複コストが削減でき、作業員の現場間移動時の習熟時間も短縮されます。重大事故の減少は工期遅延リスクの低下にもつながり、結果として施工効率の向上と建設コスト抑制に寄与します。

まとめ

米国の大手建設会社主導で進む安全用語の統一は、工事現場における重大災害ゼロを目指す実践的な取り組みだ。日本の建設業・重機業界にとっても、安全管理の標準化は経営と現場の両面で重要なテーマとなっている。kenki-pro.comでは、こうした海外建設プロジェクトの最新動向や建設機械に関する情報を継続的に発信しています。ぜひ定期的にご確認ください。

出典:Big contractors seek to standardize safety language