香港の大規模商業施設リニューアルで、CO₂を永久固定する革新的コンクリート技術が実用化された。炭素排出量を最大34%削減するこの工法は、環境対応を迫られる建設業界にとって見逃せない一手だ。

香港・ランドマーク改修現場でCO₂固定コンクリートが実用化——排出量34%削減を達成

2025年9月、香港政府建築署がカナダ企業CarbonCure(カーボンキュア)の技術を正式承認した。承認までに要した期間は約18ヶ月。厳格な試験と準備を経てのスタートだ。

この技術を現場で先行採用したのが、英国バルフォア・ビーティーの香港子会社であるGammon Construction(ギャモン・コンストラクション)と、開発事業者のHongkong Land(ホンコン・ランド)の連合チームだ。施工場所は香港・中環(セントラル)の象徴的な商業複合施設「ランドマーク」。「Tomorrow’s Central(トゥモローズ・セントラル)」と名付けられた3年間の大規模改修プロジェクトで、ファサード・オフィス・ロビーの全面刷新を進めている。

CarbonCureのシステムは、コンクリート練り混ぜ工程に回収済みのCO₂を直接注入する。注入されたCO₂はコンクリート内部で化学反応を起こし、炭酸カルシウム系の鉱物へと転換。その炭素は半永久的に建材内へ封じ込められる仕組みだ。さらに今回の配合には高炉スラグ(GGBS)を約40%混入しており、セメント使用量を最大7%削減しながら強度・耐久性は従来水準を維持する。この二重のアプローチにより、従来型コンクリートと比較したCO₂排出削減率は34%に達した。工事現場ではあわせて100%グリーン鉄筋と100%サステナブル木材も採用しており、建設プロジェクト全体の環境負荷低減を一体的に推進している。

なぜ今この技術が注目されるのか——建設業界の脱炭素圧力と実用化のハードル

建設業は全世界のCO₂排出量のうち約37%を占めるとされる。なかでも「製造過程での排出(エンボディドカーボン)」はスコープ3排出として注目が高まり、発注者・投資家・規制当局からの削減圧力が急速に強まっている。

特にコンクリートは建設コストの根幹を支える材料でありながら、セメント製造に伴うCO₂排出が課題として長年指摘されてきた。しかしこれまで「低炭素」と「コスト・性能の両立」は相反するものとして扱われることが多く、大規模な実用化はなかなか進まなかった。

今回のプロジェクトが業界に与える意義は二点ある。一つは、政府建築当局による正式承認という「お墨付き」を得た点だ。民間の試験導入にとどまらず、行政が認めた工法として横展開しやすい土台が整った。もう一つは、コンクリート配合の工夫(GGBSの大量混入)と外部からのCO₂固定(CarbonCure技術)を組み合わせた複合アプローチを実証した点だ。単一の技術に依存せず、積み上げ式で削減効果を最大化するこの発想は、海外建設プロジェクトにおける標準的な設計思想になりつつある。

一方で、コスト面の課題は残る。高炉スラグの安定調達や、CO₂注入設備の導入コストは中小規模の施工会社にとって依然ハードルとなり得る。それでも、カーボンプライシングや規制強化が進む市場環境では、低炭素工法のコスト競争力は今後急速に改善する可能性が高い。

日本の建設業界・建設会社への影響——調達戦略から施工管理まで

日本の建設業界にとっても、このニュースは対岸の火事ではない。国土交通省はインフラ工事における低炭素コンクリートの活用推進を明示しており、公共工事での採用拡大は時間の問題だ。また、大手ゼネコン各社はすでに高炉スラグ混合コンクリートの実績を持っており、CarbonCure型のCO₂注入技術との組み合わせは技術的に親和性が高い。

現場監督・施工管理者の視点では、GGBSを40%混入した配合は初期強度発現が緩やかになるケースがある点に注意が必要だ。養生管理の見直しや、工程計画への織り込みが求められる。ただし、長期強度や耐久性の向上というメリットもあり、構造物の維持管理コスト削減につながる可能性も秘めている。

購買担当者にとっての焦点は、GGBSの安定調達だ。日本国内では高炉スラグの供給は製鉄所の生産動向に左右される面があり、中長期的な調達計画を早めに組み立てておくことが重要になる。また、CO₂固定技術を持つ国内外のサプライヤーとの関係構築も、競争優位性を左右する要因となってくる。

重機・建設機械の運用面では、今のところ直接的な機器変更は不要だ。しかしコンクリート品質管理の高度化や、テレマティクスを活用した打設データのリアルタイム管理が普及すれば、建設DXとの融合がさらに加速する。建設機械メーカー各社がICT建機や自動化技術と低炭素材料を組み合わせたソリューションを提供し始めるのも、そう遠い話ではない。

今後の展望と注目ポイント——低炭素建設は「差別化」から「標準」へ

Gammon ConstructionのサステナビリティマネージャーであるEddie Tse氏は「同様の技術革新を業界全体に広げ、より多くのクライアントと低炭素建設を推進したい」と明言している。これは一企業の宣言にとどまらず、業界構造の変化を示唆するメッセージだ。

今後3〜5年のポイントは三つある。第一に、各国政府によるエンボディドカーボン規制の強化。EU・英国・シンガポールなどでは建材のライフサイクル評価(LCA)の義務化が進んでおり、日本もこの流れに追随する可能性が高い。第二に、CO₂固定技術のコスト低下と適用範囲の拡大だ。現在は商業施設が主戦場だが、道路・橋梁・ダムなど大規模インフラ工事への展開が現実味を帯びてくる。第三に、低炭素建設が「付加価値」から「入札要件」へと格上げされる転換点だ。発注者が環境性能を評価指標に組み込む動きが加速すれば、対応できない企業は受注機会そのものを失うリスクがある。

よくある質問(FAQ)

Q: CarbonCureのCO₂注入技術は、コンクリートの強度や耐久性に影響しますか?

A: 性能への悪影響はありません。CO₂が鉱物化することでむしろ微細な空隙が充填され、強度がわずかに向上するケースも報告されています。香港建築署の18ヶ月にわたる試験でも性能は確認済みです。

Q: 高炉スラグ(GGBS)を40%混入した低炭素コンクリートは、通常の工事現場でも使えますか?

A: 技術的には多くの工事現場で適用可能です。ただし初期強度の発現が通常より緩やかになるため、養生期間や型枠脱型のタイミングを工程計画に慎重に組み込む必要があります。日本国内でもGGBS混合コンクリートの施工実績は豊富にあります。

Q: 低炭素コンクリートの採用は建設コストを押し上げますか?

A: 短期的にはCO₂注入設備の導入費用やGGBSの調達コストが加わる面があります。しかしセメント使用量の削減(最大7%)がコスト増を一部相殺します。また、カーボンプライシングの普及や規制強化が進む中長期的な視点では、低炭素工法の方がトータルコストで有利になるシナリオが現実的です。

まとめ

香港のTomorrow’s Centralプロジェクトは、CO₂固定技術と高炉スラグ混合コンクリートの組み合わせで排出量34%削減を実証した。低炭素建設は「選択肢」から「競争条件」へと変わりつつある。日本の建設業・建設機械業界が今後どう対応するか、kenki-pro.comでは引き続き国内外の最新動向を追っていく。

出典:Gammon Construction team uses low-carbon concrete in Hong Kong