中国国有企業の山東ハイスピードグループが、セルビアで83kmに及ぶ高速道路建設の13億ユーロ契約を獲得した。欧州市場での中国建設資本の攻勢が止まらない。その構図と日本への示唆を読み解く。

📌 この記事のポイント

  • 山東ハイスピードグループがセルビア・ベオグラード南部を結ぶ83km・13億ユーロの高速道路建設を受注(2026年5月公表)
  • 中国国有企業による欧州インフラ受注の継続は、日本ゼネコン・重機メーカーのグローバル競争環境を直接圧迫する
  • 「一帯一路」型インフラ外交が欧州周辺国で機能し続けている現実を、日本の建設業界は真剣に直視すべき局面に来ている
海外建設プロジェクト インフラ工事(写真提供:pixifant / Pixabay)
海外建設プロジェクト インフラ工事(写真提供:pixifant / Pixabay)

山東ハイスピードが獲得した13億ユーロ案件の全容

受注の規模から入ろう。13億ユーロ、日本円に換算すれば優に2,000億円を超える巨大インフラ案件だ。

路線はセルビア北部の首都ベオグラードから南下し、シュマディヤ(Sumadija)およびポモラヴリェ(Pomoravlje)地域へ至る83kmの高速道路で、同国の幹線交通網を大幅に強化するプロジェクトだ。施工を担うのは中国国有の山東ハイスピードグループ。同社は中国国内でも高速道路・鉄道・橋梁分野で大型案件を手がける実績豊富な国有建設企業であり、近年は海外展開を積極的に加速させている。

現場目線で言えば、83kmという延長は決して小さくない。油圧ショベル・ブルドーザー・ホイールローダーといった大型土工機械が大量に投入される規模であり、仮設橋梁・高架橋のクレーン工事も相当数が発生する。工期管理と重機の稼働率が原価を左右する典型的な高速道路建設プロジェクトだ。

この動きが示唆するのは、中国国有建設企業が「価格競争力」だけでなく、「国家資金を背景とした融資パッケージごと売り込む」という独特のビジネスモデルで欧州周辺国市場を獲得し続けているという産業構造上の変化だ。工事価格の安さだけで説明できる話ではない。

なぜ今、欧州でこれだけ中国案件が積み上がるのか

問題はここだ。セルビアはEU加盟候補国でありながら、中国との経済関係を独自に深めてきた国だ。

「一帯一路」構想の文脈で、セルビアはバルカン半島における中国インフラ投資の重要拠点として位置づけられてきた。国内財政だけでは賄えない大規模インフラ整備を、中国国有銀行の融資+中国企業の施工というパッケージで実現できる——この構図がセルビアを含む欧州周辺国で繰り返されている。EUが厳格な調達ルールや環境基準を課す一方、中国は「速さ」と「融資付き」で競合する。

ここで見落とされがちなのが、重機・建設資材の調達の流れだ。中国系ゼネコンが受注した案件では、使用される建設機械も中国ブランド(XCMG、SANY、中聯重科等)が中心となるケースが多い。コマツや日立建機が得意とする高精度ICT建機・テレマティクス対応機が入り込む余地は、こうした案件では構造的に狭い。

欧州先進国市場では建設DXや電動化対応が調達基準に絡んでくるが、セルビアのような新興インフラ市場では「動くか・安いか・融資はどうか」が優先される。日本の重機メーカーにとって、この市場セグメントはもともと競争の主戦場ではなかったとも言えるが、だからこそ中国勢が着々と実績と信頼を積み上げていく現実を軽視してはならない。

変わるグローバル建設競争——日本の建設業界が問われること

率直に言う。日本の大手ゼネコンである大成建設・鹿島建設・大林組などが欧州周辺のインフラ案件でこうした中国国有企業と真正面から価格競争を挑んでも、現状では勝ち目が薄い局面は少なくない。

ただし、これを「負け戦」と捉えるだけでは思考停止だ。日本の建設業界が強みを発揮できるのは、高品質施工・長期メンテナンス・環境対応・ICT建機の活用といった付加価値領域だ。実はこれが厄介で、発注者側が「品質の差」を判断できる目利き力を持つかどうかで、日本勢が競争できる土俵が変わる。

重機メーカー視点では、コマツや日立建機は北米・豪州・東南アジア市場でのICT施工・テレマティクスサービスの展開に軸足を置いている。セルビアのような案件への直接的な打撃は限定的かもしれない。しかし、中国ブランド重機が欧州周辺国で稼働実績を積み上げることは、5〜10年後の市場構造を変える伏線になる。購買担当者として見れば、中国製重機の「実績ある代替調達先」としての地位が着実に固まっていくリスクは無視できない。

問われるのは、日本の建設業界全体としての海外戦略の解像度だ。「どの市場」で「何の強みで」勝つのかを、より鮮明に描き直す時期に来ている。

よくある質問

Q: 山東ハイスピードグループとはどんな企業ですか?

A: 山東ハイスピードグループは中国山東省を拠点とする国有建設企業で、高速道路・橋梁・鉄道など大規模インフラ工事を主力とする。近年は海外インフラプロジェクトへの参入を積極的に拡大しており、今回のセルビア案件でも13億ユーロという大型契約を獲得した。

Q: セルビアの高速道路建設に日本の重機は使われないのですか?

A: 中国国有ゼネコンが施工する案件では、中国製建設機械(XCMG・SANY等)が優先調達されるケースが多く、コマツや日立建機などの日本製重機が大量に採用される可能性は構造的に低い。ただし現地サブコンや特殊工種では日本製が入る場合もある。

Q: 中国の欧州インフラ進出は今後も続くのでしょうか?

A: EU加盟候補国や財政基盤の弱い欧州周辺国では、融資付きで提案できる中国国有企業の競争優位が続く公算が大きい。一方でEU本体の調達規制強化や地政学的リスクが変数となっており、中長期的な情勢変化の注視が必要だ。

まとめ

中国・山東ハイスピードグループによるセルビア83km・13億ユーロ高速道路受注は、欧州周辺インフラ市場での中国建設資本の存在感を改めて示した。日本の大手ゼネコンや重機メーカーへの直接的影響は限定的でも、中国製重機の実績蓄積と市場構造の変化は5〜10年単位で競争環境を塗り替える。迫られる日本建設業界の戦略再定義。kenki-pro.comでは引き続き海外建設プロジェクトと建設機械市場の最新動向を発信していく。

出典:China to build €1.3bn Serbian expressway